本当に脳死は人の死≠ナよいのか?

改定A案衆議院通過

臓器移植法改悪を進めてはならない

中村暁美さん

小児の臓器移植を可能にすることを目的にした臓器移植法改定案(A案)が6月18日、わずか9時間という拙速審議のまま、衆議院で可決され参議院に送られた。その内容は、臓器移植をする場合だけでなく、一般的にも脳死を一律に人の死とするものだ。しかし、脳死を人の死とすることは、国民的合意には至っておらず、社会的にあまりに問題が多い。また、最近の新しい医学的知見に照らしても脳死の定義≠ヘ揺らいでいる。人の生死にかかわる最重要問題を、政治的な駆け引きにゆだねてはならない。

生命軽視の風潮強まり
社会は荒廃

1997年、臓器移植法は参議院での審議で、宗教界などからの意見も受け、「脳死を一律に人の死とはぜず、臓器提供をする場合に限ってそれを死と見なす」ことで修正決議された。
 しかし、今回の臓器移植法改定A案は、臓器移植する場合に限らず、「一般的に脳死は人の死」とし、臓器提供の必須条件だった「生前の書面による本人の意思表示」を不要とし、家族の同意だけで、臓器提供を可能にするものだ。
 改定の目的は、15歳以下の子供への臓器提供を可能にすることと、脳死患者からの臓器提供件数を増やすことにある。
 だが、決して国民のすべてが脳死を人の死と考えているわけではないこと、現在の脳死判定基準(竹内基準)が26年前に作られた古いものであること、小児の脳死判定は困難であることなどから、医学界、宗教界、市民の間から、規制を緩める法改定を危ぐする声が上がっていた。

崩壊した脳死の定説

たとえば、83年の脳死判定基準制定当時は、「脳死状態になると1週間もすると、心臓は停止する」のが定説≠ニされていた。しかし、その後の調査で、1週間はおろか、長い場合で10年以上も生存する、「長期脳死」の症例が、子供を中心に国内でも多数確認されるようになった。

脳死からの生還
アメリカの3 大ネットワークの1つNBCが「4輪バイク事故の死者≠ェ回復」との見出しで伝えたニュース。医師は脳血流の消失も含め「あくまで厳格に脳死判定した」という。臓器摘出作業に入る直前、肉親が意思ある動きを確認したため臓器提供をキャンセル。脳死状態だった若者には医師の言葉が聞こえ、記憶していた
 海外では最長で21年間生存した例(アメリカ)まであり、その男性は4歳で脳死状態となり、成人の体にまで成長していた。
 また、「脳死状態は回復しない」とされてきたが、最近の日本でも脳死と診断された子供の自発呼吸や脳波が回復した例も報告されている。
 さらに驚くべきは、脳死≠ニ判定され、臓器摘出が行われようとしていた時、意識が戻り蘇生した青年がアメリカに現れたことだ。オクラホマ・シティのザック・ダンラップさんで、その事実は08年3月23日のNBCニュースで報道され、今もインターネット上で放映されている。
 彼は脳死状態で死亡宣告する医師の言葉を覚えており、「その時は気が狂いそうだった」と語っている。「脳死患者に意識はない」という定説≠覆すものだ。彼の脳死判定を担当した医師は「判定は厳格に行った」と述べている。

私の子供は死人ですか?

そして、何より脳死を人の死とすることに強く反対しているのは、現実に脳死状態やそれに近い重い障害を持つ子供を持つ親や、患者の家族たちだ。脳死が人の死であれば当然、「わが子は死人なのか?」という疑問と怒りがわく。
 人工呼吸器をつけた子の親の会「バクバクの会」(大塚孝司会長)は、法改定の慎重審議を求める国会議員への要望書の中で、 「脳死∞脳死に近い状態≠ニ言われながらも、日々成長しながら生き抜こうとしている目の前の子どもたちに、『あなたたちは死んでいるんだよ』と語りかけることはできません。脳死≠ェ一律に人の死≠ニなれば、判定を拒否した場合、『無駄な延命をさせている』『なぜ臓器提供しないのか』という社会の無言の圧力が働かないと言えるでしょうか」と訴えている。
 救われるべきいのちと、そのために犠牲となるべきいのち。すべての人に生きる権利があるはずだが、脳死≠ニいう臓器移植のための死の基準は、命の価値に序列や軽重をつけ、選別する。
 そうした意識は更なる弱者へと向かうだろう。脳死臓器移植の推進はいのちの格差社会≠生むだろう。
 また、日本の社会には神道であれ、仏教であれ、もっと豊かな霊魂観や身体観に基づいた、いのちを大切に考える敬けんな文化的伝統があったはずだ。身体を単なる機械のようにとらえ、即物的に死を判断する脳死≠ヘ、精神的・文化的な荒廃も社会にもたらす。
 私たちの社会を、そういう方向に向かわせてはならない。そのためにも、今、参議院で審議されている改定A案を、そのまま通過させてはならない。
 今こそ、脳死は人の死ではない≠ニの声を、市民一人ひとりから政府、国会、議員に届けよう。

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