宗教界「脳死は人の死ではない」

7月8日 主要10教団、日本宗教連盟が参院会館で表明

宗教・宗派の違いを超えて

諸宗教代表
集会では今岡 達雄 (浄土宗総合研究所主任研究員)、爪田 一壽 (浄土真宗本願寺派教学伝道研究センター研究員、武蔵野大学専任講師)、藤原 正寿(真宗大谷派教学研究所所員)、村上興匡(天台宗総合研究センター研究員、大正大学人間学部准教授)、高佐 宣長 (日蓮宗現代宗教研究所主任)、 篠崎 友伸 (立正佼成会・中央学術研究所所長)、加藤 眞三 (大本「人類愛善会・生命倫理問題対策会議」顧問、慶応大学教授)、土井 健司 (NCC〔日本キリスト教協議会〕宗教研究所研究員、関西学院大学教授)の各氏が教団見解を発表。また、曹洞宗と日本宗教連盟の見解が代読発表された

「脳死を一律に人の死」とする臓器移植法改定A案が去る6月18日、衆議院で可決され、つづく参議院では7月9日、わずか20時間たらずで厚生労働委員会における実質審議は終了。審議未了の問題が山積したまま、7月10日、参議院本会議で「中間報告」。7月13日、採択される。

 強い危ぐの声上がる

しかし、この問題は深く日本人の死生観に関わる重大な事柄であるだけに、日本の宗教界からは広く強い危ぐの声が上がっている。こうした事態に際し、審議終了直前の7月8日、宗教界の各団体が初めて国会・参議院議院会館に一同に会し、「脳死は人の死ではない」との緊急提言を行った。
 その集会は。8日午前11時から開かれた『「臓器移植法」を考える緊急院内集会―宗教界からの緊急提言―「脳死は人の死ではない」』(主催=「臓器移植法」改悪に反対する市民ネットワーク)で、浄土宗、浄土真宗本願寺派(西本願寺)、真宗大谷派(東本願寺),天台宗、日蓮宗、立正佼成会、大本、キリスト教の各教団の附置研究所の所長やメンバーらが、これまで公にしてきた教団見解を紹介。また、曹洞宗、日本宗教連盟の見解を代読発表。宗教界の一致した意見として「脳死は人の死ではない」ことを改めて表明。「脳死を一律に人の死」とする改定A案に対する危ぐが広く宗教界にあることを訴えた。

無理・矛盾に満ちた脳死

大本を代表して出席した加藤眞三「人類愛善会・生命倫理問題対策会議」顧問(慶応大学看護医療学部教授)は、医師としての見解を交えて見解を表明。「科学だけが先走って死を定義してよいのか疑問」とした上で、「本当に全脳の不可逆的な機能停止を判定できるのか疑問。例えば、人間の体温の恒常性や血圧は脳が分泌するホルモンによって保たれている。つまり、脳死状態でも心臓が動いているということは、まだ脳のホルモン分泌があり脳の機能が生きている証拠」などの例をあげ、脳死の概念や脳死判定基準そのものに無理や矛盾があることを鋭く指摘した。

天台宗
宗教は古くから日本人の死生観や精神文化の形成に深くかかわってきた。集会には代表的な諸教団が一同に会し、医学的、社会的見地もふまえ、社会的脳死を人の死とすることへの危ぐを改めて訴えた。写真は天台宗の見解を紹介する村上興匡天台宗総合研究センター研究員(大正大学人間学部准教授)
日本宗教連盟の意見に反映

1997年に臓器移植法が施行されてから12年。宗教各派は自教団の教えとの関連だけでなく、医学的・社会的な面からも、脳死臓器移植がなぜ問題なのか研さんと理解を深めてきた。こうした研さんの成果は、「日本宗教連盟(日宗連)」が、臓器移植法改定にあたって再三に渡って発してきた要望や意見書に、「脳死を一律に人の死とはしないこと」「本人の書面による意思表示」「小児の脳死臓器移植の是非については、第2脳死臨調を設けて検討すること」などの内容として反映されている。

「いのち本来のあり方を」
 女性議員たちの声

噂される衆議院解散を前に国会内が慌ただしい中、集会には15人の国会議員が参加。「参議院の参考人質疑では、脳死患者の臓器を社会資源≠ニ見る医師の意見さえ出て、大変ショックを受けた」(福島みずほ議員、社民党党首)。「いのちの本来のあり方を大事に考えたい」(有村治子議員、自民党)、「大きなものに生かされ育まれている命という原点を忘れず、より多くの命が生かされるにはどうすればよいかを探りたい」(林久美子議員、民主党)、「親にとって子供は、ただ生きてくれているだけで幸せな存在。仮に私の子供が脳死状態になったとき、果たして動いている心臓を提供できるのか今も悩んでいる」(牧山ひろえ議員、民主党)など、参加した多くの女性議員から、女性ならではの発言が相次ぎ注目を集めた。

発言する女性議員
女性議員からは「いのち」という視点からの発言が相次いだ

改定A案の対案として参議院の野党有志は、「子供脳死臨調」設置を求める改定E案を参議院に提出。その発議者の一人、千葉景子議員(民主党)は、「私は現行の臓器移植法制定時にも異議を唱えた。脳死を人の死と断じることや小児脳死に道を開く事に、万人が納得しているわけではない。まだまだ納得のゆく議論が必要だ」。同じく発議者の一人、川田龍平議員(無所属)も「長期脳死の子供の問題など、未解決な問題が多い、もっと議論を深めていく必要がある」と述べた。

参議院は良識ある判断を

参議院では先のE案に加え、A案の修正案として、「臓器提供する場合に限って脳死を人の死」とする案が与党有志によって提出されており、計3案が13日に参議院本会議で採決される。脳死を人の死とはしない方向で、参議院の良識ある判断が望まれる。
 今回の集会には報道各社が記者席を埋め、熱心な質問もあいついだ。また、代表が出席した8教団の信徒・門徒総計だけでも、3000万人(公称)にのぼり、日宗連には日本の宗教法人(約18万)の9割が加盟している。「脳死は人の死ではない」との共通認識に立ち、今後、宗教界からのメッセージが伝わり、「脳死は人の死ではない」との世論が大きく形成されることが期待される。